胃の働きを知るきっかけとなった・・・胃ろう

胃ろうは、口から食事のとれない人、飲込む力のない人のために、直接、胃に栄養を入れるためのおなかに小さな穴をつくりチューブを挿入して栄養を注入する方法です。

胃ろうによる栄養補給の対象になるのは、主に脳梗塞や脳出血のために嚥下困難になっていらっしゃる方です。
最近は延命のために胃ろうを造るかどうかが問題視されており高齢者の胃ろうを造ることは、
絶対的な適応とはいえずできる限り避けた方がよいという意見が主流になっています。
でも症例を選べば、やはり有用な治療手段には違いありません。
過去の歴史を振り返ると偶発的にできてしまった胃ろうが医学の進歩に大きく貢献しました。

1822年アメリカの小さな毛皮屋で猟銃が暴発しました。
お腹に傷をおったセント・マーチンは、治療を受けて回復しましたが、傷ついた胃と胸壁が癒着し胃ろうが出来てしまいました。
通常、胃ろうは手術をすれば塞がるのですが、マーチンは手術を嫌がりました。
胃の穴は開いたままになり、指を押しつけるとポケットの中をのぞくように胃の内部がよく見えたのです。

治療をした軍医ウィリアム・バーモントは、マーチンの承諾を得て、胃に開いた窓から見える胃の内部の様子を克明に観察しました。
食事を摂るとマーチンの胃の内面は、ピンク色から鮮やかな赤色に変わり、露のような液体(胃液)が噴き出しました。
胃液は、肉さえも溶かしてゆくことが観察されました。

バーモントは、様々な食べ物でどのくらい消化に時間がかかるかを調べました。
パンで3時間30分、ビフテキ3時間、目玉焼き3時間30分などで、コーヒー、アルコールなどの刺激物は胃に悪影響を与えることを観察しました。
怒った時に胃は白っぽくなり、機嫌のよい時に食べた時に比べ2倍も長く胃に留まることを観察しました。
消化が心理的な影響を受けることも発見したわけです。

この観察により胃の主な働きが、食物と胃液を混合して粥状にすることだとわかりました。
その後、胃液に含まれる胃酸、消化酵素などが解明されるきっかけになりました。
偶然に起こったことを見逃さず、それを活かすことができた好奇心に満ちあふれる人物が医学の発達に寄与したのです。
すごい観察力だと思います。

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