特定の職業の方が、同じタイプのがんになることがあります。よく知られているのは18世紀後半のイギリスでは煙突掃除屋さんという職業がありました。チムチムニー、チムチムニー、チムチチェリーという歌で有名な映画「メリーポピンズ」も煙突掃除屋さんの話でしたね。この煙突掃除屋さんたちは、裸でススをかぶるために陰嚢がんが多発しました。19世紀には、ベンジジン、ナフチルアミンのような芳香族アミンにより膀胱がんが多発することがわかりました。
現代は、職業がんはないのかというとあります。石綿による中皮腫、肺がんが有名ですね。
さらに平成24年には印刷事業所につとめる者に胆管がんが多いと報告されました。胆管がんは、50歳未満での発症・死亡はきわめて少ない疾患です。それが30名の職場で3名の方が胆管がんが発症したことから仕事との因果関連が推察されました。
その職場では、通風が悪い中1,2ジクロプロパンなどの有機溶剤が多量に使用されていました。作業者は、高濃度の有機溶剤に暴露されていたと考えられます。その後の研究調査で、原因究明作業により1,2ジクロプロパンが発がん物質であると認定されました。因果関係が認められて32名が職業性胆管がんとして労災認定を受けています。
有機溶剤は、印刷以外にも塗装、接着、洗浄など幅広い用途で多くの職場で使用されています。国際がん研究機構は、発がんのおそれがある有機溶剤として以下の10物質をあげています。
①クロロホルム ②四塩化炭素 ③1,4ジオキサン ④1,2-ジクロルエタン ⑤ジクロルメタン ⑥スチレン ⑦1,1,2,2-テトラクロルエタン ⑧テトラクロルエチレン ⑨トリクロルエチレン ⑩メチルイソブチルケトン
有機溶剤は、中毒になることはよく知られていたが、臓器に傷害を起こしがん発症にもつながることがあるようです。
職業がんの特徴は以下の4点です。
①発症年齢が若い②潜伏期が長い③離職後も発症の可能性がある④病理組織変化や症状および治療は一般のがんと変わらない
まれながんが多発した場合や同じ職場で同じ疾患が多発するような場合は、職業がんも念頭に入れて検査をする必要があるかもしれませんね。