昨日、外来に30代の女性が頚部の痛みを訴えて来院しました。1週間ほど前に風邪をひいたそうです。その後、頚部ちょうどのど仏の下あたりが痛くなってきたということでした。最初左側が痛かったのですが、徐々に痛みが右側に移ってきて、熱も夜間38度ちかくまであがります。
鍼灸の仕事をしている方でしたので、医学的な知識もあり甲状腺の疾患ではないかと考え、インターネットで自分の病状に合う疾患を調べたところ亜急性甲状腺炎という病気に行き当たりました。近医を受診したところ専門でないのでわからないけどと鎮痛剤の処方をしていただいたそうです。でも痛みが改善しないということで私のところにきました。
診察すると頚部の腫脹はありませんが、触ると痛みが強くあります。風邪症状が先行して、発熱と頚部(のど仏の下)の左右の圧痛、検査では炎症反応陽性、白血球の増多はありません。病歴、診察所見、検査所見すべて亜急性甲状腺炎にあてはまる所見です。診断は亜急性甲状腺炎でよいと思います。
この病気は、ウイルスが原因と考えられている病気で甲状腺に炎症が起こります。炎症が起こり甲状腺細胞が破壊されるために、しばしば血中に甲状腺ホルモンが過剰になります。そのため機能亢進症状として動悸や手の振るえ、発汗などの症状が2~3週間続くことがあります。
次第に炎症は自然に軽快してゆくのですが、早く症状を抑えるためにはステロイド剤(プレドニン)を処方します。3錠(15mg)を2週間、2錠(10mg)2週間、1錠〈5mg)2週間服用してもらうことで徐々に回復します。ちょっと時間はかかりますが、必ずよくなる病気です。
この病気の患者さんは結構いるのでしょうが、軽度ではノドが痛い風邪と考えてそのまま様子を見ているうちに自然になおってしまうパターンが多いのではないかと思います。
それにしても医師でも風邪と誤診しやすい病気を患者さん自身がみごとに自己診断をつけて来院しました。インターネット社会は恐るべしです。しっかり勉強しておかないと患者さんの方が知識が上だったりする時代であることを再確認しました。常に学ぶ姿勢を忘れないで診察にあたりたいと思います。